慢性疼痛のこころの状態に着目したセルフケア

このブログでは痛みのセルフケアとして、より個人的な感覚や内面に着目しての工夫をお伝えします。痛みをどんなふうに、どんな程度で感じるかということは、自分しか体験のできない個人的な感覚です。痛みの感じ方は、その人のそれまでの経験・人生、そのときの状況や調子が大きく関わってきます。
極端な例ですが、長距離マラソンの選手が実はマラソンの途中で骨折(疲労骨折)していたにもかかわらず、走っているあいだには痛みを感じることなく完走してしまうことがあります。激しい運動をしているときには、脳内に鎮静物質が分泌されやすいという身体的な変化の他、アスリートは日々つらい練習を重ねることで痛みへの耐性が強くなっていること、また目の前の勝負や勝利に対しての集中によって、一時的に痛みを感じにくくなるということがあるのです。
ストレスがあることは痛みの強さに影響するといわれますが、こころの状態としての意識や気持ちの有り様が感じ方に関わってきます。
痛みと抑うつの関係
線維筋痛症では、疼痛の他に一番併存しやすいことが指摘されているのは抑うつ症状です。抑うつとは気持ちが落ち込む状態のことですが、より分かりやすく説明するためには、心も身体もエネルギーが下がった状態といった表現した方がよいかもしれません。心身ともにエネルギーが下がっているので、積極的に自分に必要な情報を外側から求めようとしたり、何かを改善しようと行動をすることが難しくなります。
そのため、抑うつ状態では、外界に意識が向けにくく、自分の内面や内側の感覚に目を向けやすくなっていきます。具体的には、自分の痛む箇所ばかりが気になって、痛みや病気のことが頭から離れないために不安な気持ちが高まります。
また、場合によっては自分の体験や記憶についての回想が多くなり、あの時こうしていたらこうはならなかったんじゃないか等の後悔の気持ちが高まることもあります。
認知行動療法の視点ではうつ病の人の特徴として、①自分に対して、②周囲に対して、③将来に対して否定的な考えになりやすくなることが指摘されています。
痛みと抑うつが併存すると、痛みがあるために気分が落ち込み、気分の落ち込みによってより痛みを感じやすくなるという悪循環になっている可能性があります。そのため抑うつ症状・抑うつ気分への対処も、翻って、痛みへの対処となるのです。抑うつへの対処には、精神科薬の服薬も一つの選択ですし、自分の状態に気がついて落ち込みすぎないようにする意識のあり方も大切です。
痛みから一時的に目をそらすこと
集中や没頭、意識のあり方によって痛みの感じ方は違うことと説明してきましたが、痛みを抱える患者の方々によく見られる考え方は、痛みがあるか・ないかという二極化した思考です。
「痛みをゼロにしたい」「痛みがなくなったら〜したい」という考え方よりも、もしも痛みが残存していたとしても、人生を楽しめることがある」と思えたとしたら、抑うつを遠ざけ、痛みの苦しさから一時的に目をそらすことになります。日々の生活の中で、没頭したり、集中して楽しめること、趣味、推し活などはその人のQOL(生活の質)も上げるのです。
もちろん、痛みがあるつらさを抱えた方が本当に望んでいることは、この痛みが失くなること・ゼロになること・つらさが消えることなのだと思います。しかし、今すぐにそれが叶わないときには、痛みがあることから少しだけ目をそらして、自分の生活や人生が少しでもよいものとなるように考えていくことが非常に重要です。
痛みに対してボディイメージを使ってみること
痛みの感覚と付き合うための一つとして、カウンセリングでお会いしていた方の体験をご紹介します。
その方は、四肢の痛みが顕著で、移動は車椅子を使い、日中の活動もかなり制限されていました。カウンセリングでは、その方に身体はどんなふうに痛むのか、日常どんなことを考えながら過ごしているのかを丁寧に尋ねるカウンセリングを重ねていました。その中で出てきたのは、四肢は常に痛いのだけれども、身体の中で自分の痛くないところを探してみたところ、お腹は痛くないことを発見したというエピソードでした。横になって過ごしているときに、痛くないお腹の上に、柔らかいお気に入りのぬいぐるみを乗せてみると、ぬいぐるみの重みや柔らかさから「なんだかホッとした」と安心感をお話ししてくれました。
このエピソードは、「痛みから一時的に目をそらすこと」とも言えますが、痛みのある身体を相対的に捉えたときに、痛みは確かにあるけれど安心できる部位を確かに持っていること、痛みだけではない自身の感覚をイメージとして語っていることとも捉えられます。痛みの表現として、例えば「嵐が襲ってくるような痛み」などのイメージで語ることで痛みの強弱を捉えたり、痛みのない身体の部位を安全基地としたイメージで捉えることが、自身の身体感覚への理解や気づきになり、さらには痛みを相対化することになります。
痛みを相対化することは、自分のこころから少しだけ距離をとることに繋がるので、痛みの現象に飲み込まれずに、痛みの感覚と共存することを少しだけ助けてくれることもあるのです。

痛みのセルフケアその1でも強調しましたが、大切なことは「自分に合う程度を見つけること・無理はしないこと」です。様々な方法を試すときに、合う・合わないは必ず生じます。自分にとって無理のないこと、心地よいと思えるものを確認しながら、ご自身の身体の感覚やこころの状態と付き合っていただけたらと思います。
もしも様々な方法を試すときに、自分一人では合う・合わないの感覚が掴みにくいというときには、心理士との対話がご自身の感覚やこころの状態を理解する一助となりますので、カウンセリングもご検討いただければと思います。